Member Interview

苫米地凱大 インタビュー第2弾

東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻 修士2年

研究者こそ、ビジネスとAIを。―専門性を、もっと強い武器にする

研究×ビジネス×AIを実践する、苫米地凱大さん

東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻 修士2年 未踏IT人材発掘・育成事業 2026クリエータ 次世代メモリへの応用が期待される「スピントロニクス」を研究し、ドイツ・マックスプランク研究所での研究も経験。現在は、AIによる物理実験の自律化にも取り組んでいます。 研究者として専門を深める一方で、UTBCでは「ビジネス」を学んでいます。 なぜ研究者にビジネスが必要なのか。そして、AIによって研究者の仕事はどう変わるのか。研究・ビジネス・AIの3つを実践する苫米地さんに聞きました。 ※苫米地さんの研究内容やこれまでの歩みについては、以前の記事「物理学×ビジネス。次世代メモリ『スピントロニクス』で人類に革命を。」でも紹介しています。

現在、研究の中で、AIをどのように使っていますか?

研究のプロセス全体においてAIを積極的に活用しています。 大きく分けると、「普段の実験を任せる」「開発や解析に常に伴走させる」「成果の構築や報告もサポートさせる」という3つです。 特に、未踏IT人材発掘・育成事業では、「物理実験を自律制御するAIエージェントの開発」というテーマで採択されています。 実験機器そのものをAIエージェントに接続し、複雑な実験を自律的に制御させるという試みをしています。

AIを使い始めて、研究のスピードや質にどんな変化がありましたか?

スピード・質ともに飛躍的な変化を遂げています。 一部の研究工程では、人間が行う作業時間を約1/1200 (40時間→2分) に短縮できました。 具体的には、「自動測定 → データ取得 → データ転送 → 自動解析 → 設計図の出力」という一連の工程を自律化しています。 質に関しても、人間の手や勘に頼っていた部分を、定量的な分析や制御、機械による網羅探索に置き換えられるようになりました。その結果、実験の再現性や定量性が高まり、これまで人間だけでは調べ切れなかった範囲まで探索できるようになっています。 これらの成果は、研究室内だけでなく、科学技術振興機構(JST)のサイトビジットにおいても非常に高い評価をいただいており、発表やデモンストレーションを任される機会も多くあります。

そこまでAIに研究を任せられるようになると、人間の研究者には何が求められるのでしょうか?

より俯瞰した視点で考え、意思決定する力だと思います。 例えば、AIが実験を行って結果を出してくれたとしても、「なぜこの結果になったのか」「背景にどんな物理現象があるのか」「次にこの研究が進むべき方向性は何か」を考え判断し、そして行動に移す必要があります。 AIは自分の鏡写しのような存在です。このような考察や決定がどれだけ素早く、かつ正確にできるかが、そのままAIを使った研究の生産性に直結しています。 今まで以上に、自分で頭を使って考え、素早く行動するといった力が重要になると思っています。

研究に打ち込んできた苫米地さんが、なぜビジネスを学ぶようになったのでしょうか?

UTBCに入る前は、そもそもビジネスが何を学ぶものなのか、あまりイメージできていませんでした。 「研究をする自分にどう役立つんだろう」という感覚もありました。 実際に学んでみると、ビジネスは単に会社を経営したり、利益を出したりするための知識だけではないと分かりました。 さまざまなビジネスを分解していくと、共通する構造が見えてきます。消費者や取引先、社員など、立場の異なる人たちが何を求めているのかを考えることもその一つです。 そうした考え方を学ぶことで、様々な社会現象に対する解像度を上げることができるようになりました。

実際に、ビジネスの考え方は研究にどう活きていますか?

分かりやすいのは、「良い技術を作れば、それだけで社会に広がるわけではない」と考えられるようになったことです。 UTBCで学んだ考え方の一つに「Point of Difference(差別化点)」「Point of Parity(同質化点)」「Point of Failure(敗因点)」というものがあります。 自分が研究しているスピントロニクスを例にすると、低消費電力、高速動作、不揮発性といった特徴は、既存技術との差別化点になります。 一方で、いくら優れた特徴があっても、耐久性や信頼性、集積密度、既存の製造プロセスとの互換性など、実用化するうえで最低限満たさなければならない条件があります。 さらに、製造歩留まりが極端に低い、動作が安定しない、コストが高すぎる、といった致命的な弱点があれば、技術として優れていても普及しません。 研究だけを見ていると、どうしても「技術的にどれだけ優れているか」に目が向きやすいです。 でもビジネスを学んだことで、「この技術を本当に必要としているのは誰なのか」「社会に届けるためには、何をクリアしなければならないのか」まで考えられるようになりました。 技術的には優れていても、実際の需要とは噛み合わない。ビジネスで学んだ視点を自分の研究や技術に当てはめることで、そうした技術ドリブンの社会実装で起こり得るミスマッチを、研究の早い段階から考えられるようになったことは大きいですね。

社会実装だけでなく、研究そのものの進め方にも変化はありましたか?

かなりあります。 特に実験系の研究は、一人だけで完結するものではなく、チームで進めるプロジェクトです。 そのため、UTBCで学んだプロジェクトマネジメントの考え方がそのまま活きています。 例えば、「この研究が止まるリスクはなにか」「チームのメンバーは何を必要としているのか」「その中で自分が最も価値を出せるのはどこか」といったことを、以前より意識するようになりました。 このような俯瞰的な視点を得て効果的に動けるようになったことが一番の変化です。 また、自分の研究が将来社会にどのように資する可能性があるのかを考えながら研究できること自体が、研究の面白さにもつながっています。

ドイツのマックスプランク研究所では、研究者と社会との関わり方について何か印象に残ったことはありますか?

企業との打ち合わせや学会での発信など、基礎研究を中心にしながらも、積極的に社会と接続している印象がありました。 ただ、実際に現地に滞在して一番印象的だったのは、制度そのものよりも研究者一人ひとりの主体性です。 研究室のメンバーが、「自分はこの研究室にどんな価値を提供できるのか」「どのプロジェクトなら自分が前に進められるのか」を考えて、自分から仕事や役割を取りにいくんです。 私がこれまで経験してきた日本の研究環境と比べても、誰かからテーマや仕事を与えられるのを待つというより、自分から動かなければ何も始まらないという感覚が強かったです。 そうした個人の主体性は、研究室内だけでなく、企業や学界を含む外部との関わり方にも表れていたように思います。 研究と産業の距離が制度的に近いというよりも、研究者自身が積極的に外部へ価値を提供し、接点を作りに行くことで、結果として社会との距離が近くなっている、という印象を持ちました。

「ビジネスは文系のもの」というイメージもあります。ビジネス未経験の理系でも、UTBCでやっていけるのでしょうか?

全く問題ないと思います。むしろ、理系だからこそ活かせる強みもあります。 分かりやすいところでは、数字を使って考える力や、技術的な視点から戦略を見る力があります。 それ以外にも、普段理系の学部や研究室で触れている技術の話やスタートアップの話が、ビジネスを考える場では意外と希少な知識として歓迎されることがあります。 また、UTBCにはもともとビジネスを専門的に学んできた人が集まっているわけではありません。文系・理系にかかわらず、初めて本格的にビジネスを学ぶ人も多いです。 僕自身、理系であることが理由でキャッチアップに苦労したという感覚はほとんどありませんでした。 「理系でもビジネスを学べる」というより、理系だからこそ持ち込める視点があると思っています。

研究・実験とUTBCの活動を、どう両立していますか?

1週間のうち、ほとんどの時間は研究や実験に使っています。 平日の日中はもちろん、休日も実験やデータ解析などに使うことが多いです。 UTBCの講義は平日の夜が中心なので、その時間に参加したり、別の平日の夜に課題図書を読む時間を取ったりしています。 その間、自動化した測定・解析を並行して進めることで効率的に時間を使い、UTBCへの活動時間を確保しています。

最後に、これから研究を志す理系1〜2年生に伝えたいことを教えてください。

僕自身、学部1〜2年生の頃は、物理をはじめとした理系の勉強にかなり集中していました。当時はビジネスや異分野の活動にはほとんど触れていませんでしたが、専門に没頭した時間は非常に重要だったと思っています。 一方で、今振り返ると、もっと早い段階から自分とは違う分野や考え方を持った人たちと接してもよかったと思います。 研究はどこまで行っても社会の中での活動です。そして、ビジネスは社会の中で価値を作り人に届ける方法を学ぶものです。 両者には強い関係があるというだけでなく、研究を学ぶ皆さんだからこそ、ビジネスを学ぶことでビジネスとテックの両輪を得ることができる。そういう人たちこそ、これからの時代で非常に価値のある人材になれると思っています。

Final Comment

研究を社会に届けるためにビジネスを学び、研究のあり方そのものをAIで作り変える。 苫米地さんの話からは、研究に本気で取り組む理系だからこそ、ビジネスとAIを学ぶ意味が見えてきました。 UTBCは、すでにビジネスに興味がある人だけの場所ではありません。自分の専門を深めながら、その専門をより強い武器にしたい。そんな理系学生にも、ぜひ新しい世界に触れてほしいと思っています。

入会情報

あなたも次世代の
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UTBCでは、毎年4月と10月にメンバーを募集しています。
スキル不問。「成長したい」という熱意を重視しています。

対象: 東京大学の学生選考: ES → 面接
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